- 吹奏楽のチューニングの具体的なやり方を知りたい
- チューニングについて、どのように指導すべきか分からない
「演奏者全員が、チューナーの真ん中で演奏できれば、良いチューニングができる」と誤解してませんか?
実は、単純に音程だけを合わせるだけでは、バンドのレベルは上がりません。
この記事では、吹奏楽CD30枚以上のレコーディングに携わった私が、吹奏楽でのチューニングのコツを伝授します。吹奏楽指導経験のない先生から、より技術を高めたい団体向けまで幅広く解説していきます。
この記事を読むと、吹奏楽の効果的なチューニングについて学べ、指導するバンドの力量が上がります。
- B♭だけではなく、全ての音で満遍なく音が合うようにチューニングする
- 音程だけに固執しすぎず、柔らかく・響きのある音で演奏する
- チューナーを見すぎず、音程が合っている感覚を耳で覚える
1.チューニングとは
ピアノのような鍵盤楽器は、鍵盤を叩けば、誰でも同じ音程で演奏できますが、管楽器はそうはいきません。
きちんとチューニングせずに演奏すると、ドとレの間など、とんでもない音程が出ることもあります。
管を抜き差しすることで、管の長さを変えます。管の長さを長くすれば音は低く、管の長さを短くすれば音は高くなります。
全ての音程で、満遍なく合わせやすい管の長さにするのが、チューニングの役割です。
チューニングだけで完璧な音程を作るのは不可能
全ての音程が満遍なく合いやすい場所を探す一方で、チューニングだけでは完璧な音程を作るのは不可能です。
音程を合わせるのも、良い音を出したり、速く指を回すのと同じで、1つの技術です。技術を磨けば、不完全なチューニングであっても、良い音程で演奏することはできます。
良い音程で演奏するためのヒントは、こちらの記事で解説しています。
>サックス・吹奏楽の音程の取り方・コツ〜正しい音程の練習方法
そもそもすべての音程が完全に合う管楽器は存在しません。どの楽器も合いやすい音・合いにくい音が必ず存在します。
完璧なチューニングは不可能なので、今、自分ができるベストを尽くし、過度に時間を使いすぎることがないように注意してください。
チューニングに数十分もかける団体をたまに見かけますが、効果は薄いと個人的には考えています。
2.チューニングのやり方・方法
良いチューニングにするための方法や考え方を解説していきます。
2-1.個人でのチューニング
吹奏楽団全体でチューニングをする前に、必ず個人でもチューニングを行います。
リラックスして良い奏法で演奏するのが大前提
チューナーの針に合わせることに固執して、リラックスして良い音を出すことを忘れないようにしてください。
良い奏法で演奏し、合わなかったら管の長さを変えるのがチューニングです。
アンブシュアなどを無理に変えて、合わせることのないように注意してください。
442Hzでチューニングする
チューニングは440Hz・442Hzなど意見が分かれることがありますが、余程のこだわりがない限り、442Hzで合わせましょう。
鍵盤系の打楽器は442Hzでチューニングされていますので、442Hz以外でチューニングしてしまうと、打楽器と合わなくなります。
管楽器は楽器が冷えると、音程が下がります。屋外の演奏など、どうしても442Hzでチューニングするのが困難な場合は、441Hz・440Hzと下げて合わせるようにしましょう。
ただしこれは最終手段としてください。人の耳は思っている以上に繊細なので、微妙であっても低い音程を覚えてしまうと、442Hzで演奏する際に支障が出ます。
【注意】チューニングはベー(B♭)が良いとは限らない
吹奏楽で使用する多くの楽器は、B♭でのチューニングが適しています。
しかし全ての楽器が「チューニング=B♭」が正解、とは限りません。
チューニングの目的は、全ての音を合いやすい状態にすることです。例えば極端にB♭の音程が高いのに、B♭でチューニングしてしまうと、他の音がかなり低くなってしまいます。
個人練習で、自分と自分の楽器の音程の傾向を知っておき、全体的に合わせやすいチューニングの音を探しておきましょう。
自分はアルトサックスを演奏するとき、チューニングの音を実音AとDの中間と決めています。
2-2.パートでのチューニング
時間が取れれば、個人でチューニングした後に、パート毎でチューニングをしておきましょう。
特定のパートだけが合わないから、といって全体の合奏の時間を使うのは非効率です。
逆に、事前にパート毎で合わせておいてもらえれば、吹奏楽団全体でのチューニングがスムーズに進みます。
「パート」という括りにこだわる必要はなく、例えばサックスパートであれば、アルト・テナー・バリトンそれぞれ分かれてチューニングしておく、でもOKです。
他のメンバーとチューニングをするときのポイントは次の項で紹介します。
2-3.吹奏楽団全体のチューニング
吹奏楽全体・他のメンバーと合わせるための考え方や注意点を解説します。
チューナーを見過ぎない
他のメンバーと音を合わせるときに、チューナーを常時見るのは厳禁です。どうしても気になる場合にだけ、確認するようにしましょう。
他のメンバーと合わせる場合、チューナーの針が真ん中に来ることよりも、音が合った、うならない感覚を感じることを重要視する。
極端な話し、チューナーの針真ん中で演奏できたとしても、他のメンバーが全員20セント高い音程で演奏していた場合、ハーモニーを乱しているのは、チューナーの針真ん中で演奏している音です。
チューナーの数値はあくまで参考、耳で聴いた音を重視するようにしてください。
低音楽器から、音を重ねていく
吹奏楽は、楽器の音域によって、グループ分けをします。一般的には、次のように分けます。
チューバ・コントラバス・バスクラリネット・バリトンサックス・ファゴット
ホルン・トロンボーン・ユーフォニアム・テナーサックス
B♭クラリネット・アルトサックス・トランペット・オーボエ
フルート・ピッコロ・E♭クラリネット
A→B→C→Dグループの順番で音を重ねます。
ポイントは、下の図のようなピラミッドを意識することです。
Aグループがしっかり土台を作り、Bグループがその響きの上に乗り、溶け合うように演奏します。
Cグループ・Dグループも同様に、前の響きの上に乗り、響きを溶け合わせます。
低音楽器は「メロディも少なく、つまらない」という意見も多く聞きますが、全体のサウンドの要は、やはり低音楽器です。
指導者の方は、ぜひその点を強調してあげてください。
本当に音が重なると、倍音が鳴る
音程が合わない場合、音がうなる感覚があり、音程が合うとうなる感覚はなくなります。
さらにここから、音程が更に寄っていくと、全員チューニングB♭を吹いているはずですが、FやDなど別の音がうっすらと聴こえるようになります。
このFやDは「倍音」と呼ばれる音です。
実際に鳴っている(聴こえている)音には、かすかにその音より高い音が鳴っています。これを倍音と呼びます。
グランドピアノの低音を、ペダルを踏んで思い切り鳴らすと、倍音はよく聴こえます。
音が完全に合うと、倍音まで他のメンバーと合うことになるので、普段は聴こえない倍音まで、聴こえてくることがあります。
倍音が聴こえるほど洗練されると、音の響きが段違いに良くなります。
3.チューニングが合う裏技
全員がチューナーぴったりでB♭の音を出せれば、美しいサウンドになるかといえば、そう単純な話しではありません。
逆に言えば、チューナーから少しずれていても、美しいサウンドで響かせることも可能です。
これから説明する内容は、チューニングだけに限らず、美しいハーモニーを作る上でも非常に重要な内容となります。
3-1.個々人が柔らかいサウンドで演奏する
吹奏楽でいう、美しいサウンドというのは、全ての楽器の音がブレンドした状態です。
特定の楽器の音ばかりが聴こえる状態は、望ましくありません。
ブレンドするためには、個々人が柔らかいサウンドで演奏することを心がけます。
硬い音色で演奏してしまうと、音と音とがぶつかってしまい、混じりあいません。
柔らかいサウンドは、一般的に息をゆっくり入れるようにすると、鳴らしやすいです。
しかし、息のスピードを落としすぎると、響きもなくなるので注意してください。
柔らかいサウンドを出すには、「手を温めるような息づかいで演奏する」とよく言われます。
方向性としては正しいですが、そこまで行くとやりすぎです。各自で研究してみてください。
3-2.個々人がしっかり鳴らす
個々人がしっかりと響きのある、太い音で演奏すると、音は合って聴こえやすくなります。
響きのある太い音だと、音程が合って聴こえるポイントが広くなります。下の図のようなイメージです。
前述した「柔らかい音」で演奏しようとすると、息をセーブしてしまって、響きが貧弱になりがち
しっかり息を吹き込みつつも、柔らかい響きになるように、奏法を試行錯誤してください。
反復練習だけでは、なかなか上達しません。練習についての考え方は、こちらにまとめています。
>楽器上達のコツ!毎日の楽器練習を効率よく行うための2つの考え方
3-3.バランスを整える
前述したように、低音楽器に他のパートが響きを溶け合わせることができると、音程も合ったように錯覚します。
他の項目で解説した内容も同様ですが、美しい響きがあれば、音程は気にならなくなります。
音程をおろそかにして良いわけではないですが、音程だけにこだわりすぎるのもよくありません。
まとめ
吹奏楽におけるチューニングの要点は次の通りです。
- B♭だけではなく、全ての音で満遍なく音が合うようにチューニングする
- 音程だけに固執しすぎず、柔らかく・響きのある音で演奏する
- チューナーを見すぎず、音程が合っている感覚を耳で覚える
- 低音楽器中心にサウンドを作る
チューニングや音程にこだわりすぎ、なかなか曲の合奏に進めない団体も多く見かけます。
チューニングは一朝一夕で身につく技術ではありません。ゆっくり・じっくりバンドを育てていきましょう。
長すぎるチューニングは、奏者のモチベーションも下げるので、時間を見ながら行ってください。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
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