「管楽器の呼吸法」について解説、第3回となります。
私バージェスの考える管楽器の呼吸法で、大切なことは「吸気主動(きゅうきしゅどう)」という概念です。
「吸気主動」の概要については、「管楽器の呼吸法」第1回の記事で解説していますので、ぜひご覧になってください。本当に大切です。
管楽器の呼吸法①~腹式呼吸の復習と「吸気主動」という新しい考え方
吸気主動の中で最も大切な「吸うこと」「ブレス」に特化したお話しを第2回の記事で解説させていただきました。
管楽器の呼吸法②~息は「吐く」より「吸う」のが大切 ブレスのコツ
「管楽器の呼吸法」第3回では、いよいよ楽器の音を出すのに必要な「息を吐く」ことにフォーカスして、解説していきます。
私バージェスが考える、吸気主動で「息を吐く」ときに大切にしていることはこちらです。
- 息の出口を狭くして、細い息を入れる
- お腹で支える
結論を見てこんな疑問が出てくるかと思います。
男子学生
- 「太い音を出そうとしているのに、息の出口を狭くして細い息を入れるってどういうこと?」
- 「お腹で支えるって何を支えるの?」
- 「お腹で支えるって聞いたことあるけど、具体的に何すればいのかわからない」
これらの疑問についてもお応えできるように、詳しく解説していきます。
楽器を演奏するときには、アンブシュアや息の使い方などは意識する方が多いです。
その前に息を吐く、ということを考える方は少ないです。
周りと差がつく考え方だと思いますので、ぜひ最後までお読みください。
1.吸気主動で「息を吐くこと」
前回までのおさらいになりますが、吸気主動を使った楽器演奏とは次の通りです。
- たくさん息を吸い、肺を息で満たす
- アンブシュアを作って、息の出口を狭くする
- 脱力する+お腹(腹筋)を使って息を吐きすぎないように我慢する(楽器を吹こうとしない)
- 「息の出口を狭くする」
- 「お腹を使って息を吐きすぎないようにする」
この2点が「息を吐く」ときのポイントとなりますので、順番に解説していきます。
1-1.息の出口を狭くする
1-1①.息の出口を狭くする理由と方法
息の出口を狭くすると、圧力が高い、勢いのある息を出すことができます。
ホースの先をつまむと、水圧が高くなって、勢いよく水が出るのと同じ原理です。
同じ水の量でもホースの先をつまんで、出口を狭くした方(右側)の方が、水の勢いは出ますよね。
これと同じ要領で、息の出口をアンブシュアを使って狭くします。
楽器によってアンブシュアは違いますので、一概には言えませんが、1つヒントになるのは「口の容積を狭くする」ことです。
口の容積は口の中の形のことです。
「イ」や「ウ」と発音すると、口の中は狭くなります。「ア」「エ」「オ」と発音すると、口の中が広い状態となります。
口の容積が広いままで、息の出口である唇だけ狭くしようとするのは難しいです。
自分は息の出口を狭くするため、サックスを吹くときの口の容積はできるだけ狭くしています。
繰り返しになりますが、楽器によって事情はあると思いますので、「口の容積が狭いほどエライ」なんてことはないのでご注意ください。あくまで1つのヒントです。
1-1②.息の出口を狭くするときの注意点
リード楽器(サックス・クラリネット・オーボエ・ファゴットなど)に特に多くなりがちな注意です。
「息の出口」を狭くするからといって、リードやマウスピースを噛んで、振動をさまたげてしまうような吹き方はNG。
※リード楽器が特におちいりやすいだけで、金管楽器やフルートも、マウスピースなどの振動を妨げてしまってはいけない。
音は空気の振動、まさに振動部分が音そのものです。
振動を止めるとこういった悪循環にはまります。
- 息の出口を狭くしようとして、振動を妨げてしまう
- 振動によって音が鳴るので、音が鳴らない。これは息がたりないためだと錯覚してしまう
- 自分から息を吹き込もうとして、口元に力が入ってしまう。柔軟なアンブシュアが作れなく、タンギング、ヴィブラートがぎこちない
マウスピースを噛むなどして、振動しにくい状況になってしまいます。
さらに、振動しにくいものを振動させるため、より息を吹き込もうとしてしまうという悪循環がおこります。
自分から息を吹き込もうとしてしまうデメリットは、柔軟なアンブシュアが作れない点、タンギング・ヴィブラートがぎこちなくなる点などです。(前回の復習です。)
脱力することが楽器演奏にとって、最も大切なことです。
>楽器演奏・サックスが上達するために、見落としがちな1番大切なこと
1-1③.息の出口を狭くするもう1つのメリット
息の出口を狭くするメリットはもう1つあると考えています。
「楽器の本当に良い音がするポイント、ツボ」のようなものは、ものすごく狭い。
そこにピンポイントで無駄なく息を当てたときこそ、1番良い音がする。
これも息の出口を狭くする1つの理由です。余計なところにまで息を入れて、息の無駄遣いをすることもありません。
特にサックスは、「初心者でも音が出しやすい」と言われている。つまり裏を返せば「どのように息を入れても音が出てしまう」とも言える。
なかなか癖に気が付きにくく、音が出るだけで、いい音を出すのは逆に難しい楽器だと思ってほしい。他の楽器は、ある程度正しい吹き方をしないと、音が出ないので、間違った奏法だと気が付きやすい。
1-1④.太い息?
太い息を入れて!
と注意されたことはありませんか?
これは「太い音を出せよ!」という意味です。
言われたとおりに太い息で吹くと息が散って圧力かからないのでやめましょう…(ホースの例をみてください。)
「太い息を入れろよ」と言われたら、太い音を出すためにより息を細くしている。それが合理的だと考えているから。(私がひねくれているわけではないです笑)
指導するときは、「息をまとめて」と言うようにはしている。「細い息で」というのは生徒にとっては抵抗があるようだ…
2-2.脱力とお腹の使い方
肺を息で満たしたときに脱力すると、一気に息が外に出ていくため、これでは楽器の演奏で使えません。
息の出る量をコントロールするポイントを解説します。
2-2①.お腹で支える
”お腹で支えて”息を出して
楽器を教わる時によくこんな注意を受けませんでしたか?
そのときこんな疑問はありませんでしたか?(昔の私もこの疑問を抱いていました。)
女子学生
わかりそうだけど、よく考えると「お腹で支える」って意味がわからない…
重いものをお腹に乗せてるわけでもないし…
吸気主動の奏法を知って、ようやくこの「お腹で支える」ことについて、自分の中で答えが出ました。
- 息を吸い、肺を空気で満たす。(横隔膜がしっかり下がった状態にする。)
- 脱力をする。
- 吸う量を変えて①→②の順番で試してみる
※脱力した際の横隔膜の動きに意識を注目してみてください。
吸えば吸うほど、肺に息が満たされているほど、横隔膜は勢いよく戻り(上がり)、それと同時に大量に息が吐かれます。
横隔膜が戻る(上がる)動きをさせない、横隔膜の位置を戻さないようにお腹を使って、息が外に出ていくのを我慢する。
このポイントこそが「お腹で支える」ということです。
お腹以外は脱力です、他のところに力が入らないように注意してください。
2-2②.弱音こそがんばる
女子学生
音量がfやffのときこそ、腹筋を使って、たくさん息を入れてがんばる!
このようなイメージを持っている方、多くないでしょうか?過去の私もそうでした…しかし、この考えは真逆です。
吸気主動では弱音、音量がpやppのときこそ、より一層がんばる必要がある。
音量がfやffのときこそ、腹筋を使って、たくさん息を入れる。
小さい音・大きい音、それぞれの出し方は、次の通りです。
- たくさん吸って、肺に息を満たす
- たくさんお腹で支えて、横隔膜が戻るのをできるだけ防ぐ
- 息は少しずつ身体の外へ出ていく
- たくさん吸って、肺に息を満たす(共通)
- 脱力しきると息が外に出過ぎてしまうので、少しだけお腹で支える
- 脱力したときほどではないが、息は多く身体の外へ出ていく
②に注目です。お腹を使って、横隔膜が戻るのをコントロールする部分です。
お腹を使わず、脱力しきると、一気に息が身体の外に出ていきます。
逆にお腹で支えれば支えるほど、横隔膜が戻るスピードが遅くなるため、外に出ていく息の量は減っていく(弱音になっていく)。
お腹の支え具合で、外に出ていく息の量を調整する。
お腹で支える力が強いほど、外に出ていく息の量は減る。(=より弱音になる。)
まとめると次の表のとおりです。
お腹の支え | 横隔膜 | 息の量 | 音量(参考) |
強い | 戻りが遅い | 少ない | 小さい |
弱い | 戻りが速い | 多い | 大きい |
ない | 戻りが速すぎる | 多すぎる | ×音楽で使えない |
息の出る量は、お腹の支えだけでコントロールしていきます。
音量は息の量でも変わるが、発音や音色、ヴィブラートでも音量は変えられる。
音量を決める要因は、息の量だけではない。
音量はあくまで参考です。このあたりはまた後日、別の記事で紹介いたします。
ここでは、純粋に息が身体の中から出ていく量にだけ注目しています。
息は自分から吹き込まないですし、pの方がよりお腹の支えが必要なので、fよりもpが続く方がずっと疲れます。
2-2③.楽器は吹かない
前回の記事でも書きましたが、私はサックスを「吹いている」という感覚はありません。
私がサックスを演奏するときに行ってる呼吸法は次のとおり。
①たくさん吸って、肺に息を満たす
②息の圧力を上げるため、アンブシュアで息の出口を狭くする
③脱力をして、お腹で支えて息が身体の外に出る量をコントロール
自分から「息を入れようとする」「楽器を吹こうとする」というプロセスはない。
だから、「楽器を吹いている」感覚もない。どんなに音量が大きくても、自分から息を吹き込むことは滅多にない。
参考にしてもらえると嬉しいです(^^)
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2.息の吐き方・実践編
2-1.息が足りないときの対処法
息がどうしても足りなくなった場合、少しずつ背中を丸めて(猫背のようにして)いきます。お辞儀をしていくイメージです。
普通に立った状態で、息を使い切ったと思っていても、背中を丸めるとまだ吐ける息があります。
90度くらいまで腰を曲げるほど、より息が吐けるようになります。(90度では楽器が吹けないでしょうが…)
2-2.息が余った時の対処法
吸気主動で息を吸って、肺の中に空気を満たしている状態というのが長い時間続くと、苦しくなり、演奏に支障がでてきます。
いわゆる「息が余った」状態で、息を吸う場所がなくて、息が足りない状態とは違った苦しさがあります。オーボエなどに特に多いです。
長い休符がある場合は、その間に1度、肺の空気を全て出して、演奏前に再度、肺に息を満たすこと(空気の入れ替え)が大切。
しかし息が余ったときに、長い休符があるとは限りません。
この場合、肺の中の空気の入れ替えを瞬時に行う必要があります。具体的に私は、次の手順で空気の入れ替えを瞬時に行っています。
- 思い切り脱力をし、お腹の支えをゼロにする。→横隔膜が急に上がる
- 自分からも息を積極的に吐いて、横隔膜が上がる力をさらに増やす、息をすばやく吐ききる
- アンブシュアを崩して、息を楽器の外に逃がす
- 脱力して、空気を取り込む
肺の中の空気をできるだけ外に出す。そうすると脱力しただけで、空気は身体の中に勝手に入ってくる。
ただし、演奏時に肺の中が空気で満たされていることが前提。
本来は脱力しただけでも、横隔膜は相当速いスピードで上がるのですが、瞬時に空気を入れ替えたい場合はそれでは間に合いません。
そこで自分から積極的に息を吐くことで、肺にある空気をより早く外に出すことができます。
ただし、これはもともと肺の中が空気で満たされている状況であることが前提です。
肺の中が空気で満たされ状態をキープしていないと、①で脱力したときに横隔膜が上がるスピードが遅くなるため上手くいきません。
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3.より深く呼吸法を学びたい方へ
より呼吸法を詳しく学びたい方は、こちらの書籍がオススメです。内容は難しいですが、非常に深い内容が書かれています。
まとめ
いきなり全て吸気主動で演奏をすることは難しいかもしれません。
ですのでまずは「しっかり息を吸う」ところから、意識してみればいいかと思います。
これが吸気主動の1番の基本となります。その状態で脱力すれば、息は自然と外に出ていきます。
そこから息の出口を狭く、お腹のコントロールを身につけていけば、きっとあなたも吸気主動で楽に演奏することができるようになるかと思います。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
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