音楽用語の単純な意味は、用語辞典などで調べればですぐわかりますが、具体的にどのように演奏すれば高い演奏効果が得られるのか悩んだことはありませんか?
この記事では、実践で使える、音楽用語のより深い意味と具体的な演奏方法を紹介していきます。
音楽用語は、簡単な意味が書いてあるだけであったり、学校教育のレベル感でしか解説されないことが多いです。
音楽用語に関しての知見が広がりますので、ぜひ最後までお読みください。
1.強弱記号
音楽の強弱は、「音量」「音色」「発音」「ビブラート」など、様々な方法を駆使して表現します。
音の強弱は「dB(デシベル)」という単位で表しますが、音楽で強弱を表現するには、純粋な音の大きさだけでは足りません。
1-1.強弱の基本パターン
基本的に、f(フォルテ)とp(ピアノ)は次のように表現します。
f(フォルテ) | p(ピアノ) | |
音量 | 大きい | 小さい |
音色 | 硬い | 柔らかい |
発音 | はっきり | 繊細に |
ビブラート | 波が大きい・速い | 波が小さい・遅い |
強弱の基本パターンをおさえると、fはより大きな音に、pはより小さな音に聴こえやすく、fとpの音量差が際立ちます。
音量変化(cresc.dim.など)でも、音量以外の要素を使えば、強弱の幅がより明確になります。
1-2.例外
先ほど解説した強弱の基本パターンは、多くの場面で活用できますが、例外もあります。
ソロパートをとるのに、楽譜の表記がpだった場合
pの基本パターンに則って演奏してしまう。
pとfの基本パターンを混在させる。
- 音色は柔らかく・発音は繊細にpの表現
- 音量は少し大きめに・ビブラートは速く大きくかけるなどfに近い表現
強弱の基本パターンを活かしながらも、上手にアレンジしてみましょう。
pの音楽だからと言って、テンションが必ずしも低いわけではありません。
例えば、子供がかくれんぼをしていて、隠れている子供が友達とおしゃべりしているときは、見つからないように小声でしゃべりますが、遊んでいるのでテンションは高いですよね。
実際の演奏では、「音量」「発音」「音色」を独立させるのは難しい。
例えば小さい音量で演奏しようと思うと、発音は不明瞭に、音色は柔らかくなってしまいがち。
1-3.音量変化
音量変化記号であるクレッシェンド・デクレッシェンド(ディミヌエンド)について解説します。
表記方法
クレッシェンド・デクレッシェンドは、一般的に2通りの書き方があります。
- 文字→長いスパンで、音量をじわじわ変化させる
- 記号→短いスパンで、音量を一気に変化させる
音の上行・下行
音が上行している場合はクレッシェンド、下行している場合はデクレッシェンドが自然な流れです。
逆に、音が上行している時にデクレッシェンド、下行している時にクレッシェンドとなっている場合、音量変化をしっかりつけます。
1-4.演奏での注意点
「強弱の差が大きいほど、効果的な演奏ができる」という単純な話ではありません。
ときには小さな音量の差が推奨され、やり過ぎは厳禁である箇所もあります。
あくまで、音楽の自然な流れが優先します。
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2.速さに関する記号
速度を表す記号の定義と、演奏時のルールについて解説します。
2-1.速度記号
主な速度記号の一覧です。
テンポはあくまで参考で、表記に合った雰囲気で演奏することが大切です。雰囲気の参考にするために、イタリア語の語源も併せて紹介します。
速度記号 | 語源 | テンポ(参考) |
Largo | (横幅が)広い | ♩=46前後 |
Adagio | ゆとり・慎重に | ♩=56前後 |
Andante | 歩く速さ・普通の | ♩=72前後 |
Moderato | ちょうど良い | ♩=96前後 |
Animato | 生命力がある・動きがある | ♩=120前後 |
Allegro | 陽気・楽しい・明るい | ♩=132前後 |
Presto | 早い(×速い) | ♩=184前後 |
速いテンポの演奏をしたい場合、メトロノームの数値を上げるよりも、正確な演奏を心がけましょう。
いくら速いテンポで演奏しても、リズムが不揃いだと、かえってテンポが遅く聴こえてしまいます。
逆に、そこまで速いテンポで演奏しなくとも、正確であれば速い演奏に聴こえます。
速度記号と数値が併記されている場合(Allegro ♩=132のような形)、速度記号を優先しましょう。
速度記号の雰囲気が出ていれば、無理して速いテンポにする必要はありません。
2-2.速度変化の記号
次に、速度を変化させる記号について、解説します。
速度変化記号の一覧
速度変化記号 | 語源 | 一般的な奏法 |
Ritardando(rit.) | 時間が遅れる | 徐々にテンポを落とす |
Rallentando(rall.) | 速度が遅くなる | rall.を見た瞬間からテンポを落とす |
Allargando | だんだん幅を広げる | rit.+cresc. |
Accelerando (accel.) | 速度を速く 時間を早める | 徐々に加速する |
Stringendo | 絞り込む | テンポを上げつつ、緊張感も高める |
速度変化のルール
速度変化には、決められたルールがあります。このルールに従わないと、不自然な演奏になります。
次の楽譜を例に解説します。8分音符のリズムにrit.(だんだん遅く)の記号がついています。
全ての8分音符を均等に遅くしていく
1拍の時間を徐々に長くしていき、裏拍は均等に入れる
つまり次の音は同じ長さになり、下に行くほど音が長くなる
- 1つ目と2つ目の音の長さが同じ
- 3つ目と4つ目の音の長さが同じ(①より長い)
- 5つ目と6つ目の音の長さが同じ(②より長い)
- 7つ目と8つ目の音の長さが同じ(③より長い)
指揮をイメージするとわかりやすいです。4/4拍子では、指揮者は基本的に、1小節4つの点を演奏者に指示します。
4つの点の間(=裏拍)の場所は、演奏者が場所を探すしかありません。
全ての音を均等に遅くしてしまうと、指揮者が指示できない裏拍の場所を合わせるのは非常に難しいです。
また、均等に遅くしてしまうことで、拍子の感覚も無くなります。(均等に遅くなると、何拍子で書かれていても同じ演奏になってしまうため。)
このルールは、拍子によって変わるので、例えば6/8拍子の場合は、音3つが均等な長さになります。
なお、前述した速度変化を表す記号については、全て同じルールです。
速度変化のルールから、あえて逸脱することもあるが、多くはない。
あえて逸脱する理由を説明できないなら、このルールに従えばOK。
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3.アーティキュレーション
音の出だし・長さ・処理に関わる、様々なアーティキュレーションについて解説します。
3-1.アクセント(横アクセントと縦アクセント)
アクセントには、2種類の表記方法があります。
横アクセント(>)
はっきり発音して、音を抜きます。
音を抜くとは、小さなデクレッシェンドがあるイメージで、音を小さくします。
アクセントは音符1つに対してかけるので、デクレッシェンドほど時間をかけられません。素早く音を小さくします。
縦アクセント(∧)
はっきり発音する点では、横アクセントと同じですが、音は抜きません。
打楽器を思い切り叩いたようなイメージで演奏します。
横アクセントと比較して、強く演奏されることが多いです。
その他のアクセント
楽譜に書かれていないアクセントを見つけ、表現できるようになると、1ランク上の演奏になります。
アクセントは記号がついている部分だけではありません。
アクセントは記号で明示されていなくとも、次のような箇所で見られます。
- スラーやタイのかかり始めの音
- 拍子の強拍
- フレーズの始まりの音
- 非和声音
- シンコペーション
楽譜に書かれていないアクセントを表現する場合、過度にアクセントをつけず、さりげなく演奏しましょう。
記号で明示されているアクセントほど、はっきり演奏する必要はありません。
譜面に書かれていないアクセントの位置を学ぶには、「演奏のための楽曲分析法(熊田為宏著・音楽之友社)」という書籍がオススメです。
ただし、使われている用語が難解なので、用語解説としては「和声と楽式のアナリーゼ~バイエルからソナタアルバムまで(島岡譲著・音楽之友社)」を手元に置きましょう。
どちらも難しい本なので、根気よく読み進めてください。
3-2.スラー
原則は、スラーのついた頭の音だけタンギングし、それ以外はタンギングしないで演奏します。
スラーの演奏方法の基本
音を滑らかにつなぐために、息づかいはロングトーンのまま音を変える(音によって息の使い方を変えない)のが基本です。
息はロングトーンのまま音を変えるのは、簡単ではありません。音によって抵抗感が変わるからです。
対処法・練習法については、こちらの記事で詳しく解説しています。
>ロングトーン応用編~サックス・吹奏楽奏者に向けた効果的な練習
スラーの演奏方法の例外(タンギングを伴うケース)
スラーのかかった音は、原則タンギングはしませんが、上記譜例のように同じ音にスラーがかかる場合は、優しくタンギングをして音を切ります。
これは弦楽器の演奏を考えると、わかりやすいです。
弦楽器はスラーの切れ目で弓を返します。 同じ音にスラーがかかる表記は、「弓を返さず音を切る」という指示となります。
つまり管楽器では、優しいタンギングで音を切るのが正解です。
サックスはハーフタンギングでの演奏が効果的であることが多いです。ハーフタンギングは次の記事を参考にしてください。
なお、前述したとおり、スラーの頭の音はわずかにアクセントをつけて演奏します。
スラーの演奏で注意すべき点
スラーの意味は「タンギングしないで演奏する」こと。これ以上でもこれ以下でもありません。
確かにレガート(滑らかに演奏する)を伴うケースが多いですが、スラー自体にレガートの意味はありません。
つまり、スラーがついていても、タンギングさえしなければ、息で抑揚をつけてOKです。
「スラー=滑らかに演奏する」という固定概念があると、かえって表現の幅が狭くなります。
3-3.テヌート
テヌートが書かれた音は「音に重さを乗せて」演奏します。
一般的にテヌートは、「音の長さを保つ」という意味で書かれています。(テヌートの語源は「保つ」です。)
しかしサックス・管楽器を演奏するときは、「音に重さを乗せる」と解釈する方が多いです。
そして、弦楽器奏者が弓をしっかり返すときのようなイメージで、タンギングをします。
音に重さを乗せるには、短い音だと演奏しにくいため、結果的に長くなった、というイメージで演奏します。
そのため、音を過度に伸ばし過ぎる必要はありません。
3-4スタッカート
スタッカートのついた音は、前後の音と「離す」奏法です。スタッカートの語源も「離れた」です。
次の音と離さなければならないため、結果的にスタッカートの音が短くなる傾向があるだけで、音を切ったり、短くしたりという意味はありません。
スタッカートがついた音は全て、なるべく短く演奏する。
スタッカートのついた音は、前後の音と離す。音をどの程度離すか(短くするか)は、前後の音楽・フレーズの流れから考える。
なお、スタッカートがついた音の前後が離れていないといけないので、スタッカートの前の音も短く演奏する必要があります。
3-5.メゾスタッカート
メゾスタッカートには、次の2つの表記方法があります。
- スラー+スタッカート
- テヌート+スタッカート
表記方法によって、微妙に演奏方法が変わります。
スラー+スタッカート
短く演奏します。ただし、発音が強くならないように注意して演奏します。
弦楽器では、短く演奏し、弓を返さないで演奏します。弦楽器の場合、一般的な表記で、数多く見かけます。
弓を返さないと、発音が強くならず、前後の音質が近くなります。
スラーは音を繋ぐ、スタッカートは短くと考えると矛盾します。スラーのかかった音の音質を統一する、という意味になります。
テヌート+スタッカート
テヌートとスタッカートを組み合わせたものと考えます。
- テヌート…音に重さを乗せる
- スタッカート…前後の音と離す
「テヌート=音を長く」「スタッカート=音を短く」と考えると混乱してしまいがちです。
3-6.フェルマータ
フェルマータは「長く伸ばす」だけではなく、音楽の切れ目を表します。語源は「中断」です。
次のフレーズと分けるために、しっかり吹ききってフレーズを閉じます。
またフェルマータは、拍の感覚を無くして、演奏することが多いです。
4/4拍子の全音符にフェルマータが付いている場合、本来4拍のところ6拍で伸ばす
4/4拍子の全音符にフェルマータが付いている場合、4拍以上伸ばすが、カウントしない
伸ばす拍の数を増やすと、拍子が変わっただけのように聴こえます。記譜された音符よりは長く演奏しますが、カウントはしません。
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4.装飾記号
装飾記号は、一般的に楽譜では表現できないリズムを表します。
そのため、装飾記号をどのように演奏するか、答えは明確にはありません。(これから紹介する演奏例は、あくまで一例です。)いわゆる演奏者のセンスが問われます。
「自分はセンスがない」と嘆く方も多いですが、センスは有る・無いではなく磨くものです。
センスの磨き方については、こちらの記事で詳しく解説しています。
4-1.トリル(tr)
トリルは一般的に次のように演奏します。
上記の演奏例はあくまで一例です、曲のテンポによって、トリルの音の数は変わります。
- 楽譜に書かれた音(譜例の場合はレ)からスタート
- トリルの最後の音は楽譜に書かれた音
- トリルの音は、音階の次の音(調性に従う)
トリルの音は、調性に従います。ト長調では、ファに#がつくので、トリルの音もファ#で演奏します。
調性の考え方は、後述する全ての装飾記号で同じ考え方をとります。
臨時記号が付いている場合
トリルに臨時記号(#・♭など)がついている場合、トリルの音に臨時記号をつけて演奏します。
楽譜に書かれた音(下記の譜例ではミ)は楽譜の音で演奏します。
バロック音楽の場合
演奏する音楽がバロック音楽だった場合、トリルの音からスタートします。楽譜に書かれた音からスタートしないので、注意が必要です。
楽譜の表記方法は同じですが、演奏方法だけ違います。
始めの音は変わりますが、最後の音が楽譜に書かれた音であることは同じです。
メロディの場合
特にメロディでトリルが出てきた場合は、頭の音を長く演奏し、少しずつ音の動きを速くしていくと音楽的に聴こえることが多いです。
メロディのトリルは楽譜に表すことができません、これこそ演奏者のセンスが問われる場面になります。
トリルの音の動きを変えても、テンポは変わらないように注意しましょう。
バロック音楽でトリルのあるメロディを演奏した例です。
私自身がトリルの解釈を行っています。参考にしてみてください。
楽譜はこちらで公開しています。
4-2.装飾音符
装飾音符の演奏法は、次の2パターンで、音楽の流れに応じて吹き分けます。
- 演奏例1…装飾音符を拍の前に出す(装飾音符のついた音が拍通り)
- 演奏例2…装飾音符を拍通りに演奏する
実際の演奏では、演奏例1をとることが圧倒的に多いです。ただし、バロック音楽だけは演奏例2が原則です。
4-3.トリル(tr)+装飾音符
トリルと装飾音符が並んだ場合、トリルの最後の音を装飾音でとるように、滑らかにつなぎます。
4-4.ターン
ターンは次のように演奏します。
演奏例では、5連符で記譜はしましたが、正確に5連符を刻む必要はありません。
1つ目のタイの音を長くとるケースが多いです、ただし、3拍目頭の音は正確なリズムで演奏します。
trと同様、調性に従って、演奏する音が決まります。
次のような演奏方法も間違えではありませんが、推奨はしません。
なぜなら、拍通りきっちり演奏してしまうと、わざわざターンで記譜する意味がなくなってしまうからです。
あまり多くは見られませんが、初めに2度下の音にいく、逆向きのターンも存在します。
臨時記号
ターンで考えるべき、臨時記号は次の3通りです。
- ターン記号の下に臨時記号がある…ターン記号の前の音から、2度下の音に臨時記号
- ターン記号の上に臨時記号がある…ターン記号の前の音から、2度上の音に臨時記号
- ターン記号のある前の音に臨時記号がある…ターンの前の音と同じ音全てに臨時記号
次の記譜は、①の例です。
音符の真上にターン記号がある場合
今まで解説してきた、音符と音符の間にターンがある場合とは演奏法が異なります。
ターンのついた音を省略する、演奏例2が多いです。
(応用)ターンのあとの音が裏拍の場合
ターンのついた音の後が裏拍の場合、演奏が難しくなります。ターンの後の音のリズムは正確にとらなければならないからです。
上記記譜の場合、下の演奏例のように、16分音符単位でカウントしたときの2つ目と3つ目に音を入れると、リズムが取りやすいです。
4-5.モルデント
モルデントには、2通りの表記方法があります。
- 楽譜に書かれた音から2度上の音へ行き、戻るケース
- 楽譜に書かれた音から2度下の音へ行き、戻るケース
楽譜に書かれた音から2度上の音へ行き、戻る記号を「プラルトリラー」とも呼ぶ。
tr・ターンと同様、調性に従って、演奏する音が決まります。
臨時記号
臨時記号は、モルデントによって動く音につきます。(楽譜に書かれた音ではありません。)
バロック音楽
バロック音楽でのプラルトリラーは、トリル(tr)と同じ意味で使用します。
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参考文献
音楽用語を深く勉強する際に、参考となる本を2冊紹介します。音楽用語について、語源から解説した良著です。(私自身、2冊とも持っています。)
また、一般的な音楽用語は、インターネットで調べれば十分だと考えますが、書籍で1冊持ちたいのであればこちらをオススメします。
バロック音楽特有の、音楽用語含む演奏法全般の解説はこちらを参考にしてください。
まとめ
音楽用語の一般的な演奏方法や語源について、解説してきました。
あくまで「一般的な」演奏方法なので、曲によっては、必ずしも正解とは限りません。
書かれた音楽用語を、どう演奏するかは、「良い音楽を聴くこと」で培われるイメージ力が大切です。イメージに関しては、こちらの記事を参考にしてください。
>サックス・吹奏楽部員のための音色改善・イメージの重要性とセンスについて
「楽譜をどう演奏すれば良い演奏になるかが分からない」など悩みがありましたら、ぜひレッスンをお申し込みください。今回解説した演奏方法は。あくまで一例です。レッスンでは、あなたが演奏する曲に合わせて解説します。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
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