楽譜通りに音は並ぶけど、魅力的な演奏にならない。同じ楽譜を演奏してもプロのような演奏にならない。
こんな悩みを抱えたことはないでしょうか?
これは「歌い方・表現の仕方」を知らないことが原因の1つです。
もっと歌って、表情豊かに!
こんな指示を、指揮者や指導者の方から受けたことはないですか?
歌い方や表現の仕方は、答えがあるわけではなく、最終的には演奏者の好みです。
しかし「歌い方・表現の仕方」を知らないと、具体的にどんな演奏にすれば良いのかわからないのは当然です。
そこで今回は、「歌い方・表現の仕方」の具体的なヒントを解説していきます。
私、バージェスが考える「歌い方・表現の仕方」のポイントはこちら。
・まずは「自然な演奏」が大前提
・高い表現力のある演奏をするには、楽譜の読み方とテクニックの独立が重要
・イメージが重要、最終的には「頭の中でイメージした音楽を、楽器で表現する」だけ
この記事を読めば、今あなたが取り組んでる曲のクオリティをワンランク上げることができます。ぜひ最後までお読みください。
1.自然な演奏を目指す
表現力のある演奏の大前提として、「不自然さがない」ことが非常に重要です。
演奏に不自然な点があると、その不自然さばかりが耳についてしまい、良い部分も台無しになります。
1-1.テンポ
テンポは「自然な演奏」をする上で、最も重要な要素です。
テンポキープ
テンポキープは軽んじられがちですが、超重要なテクニックです。
テンポキープができていない演奏は、かなり不自然に聴こえます。音色や表現がどんなに良くても台無しです。
テンポキープができているかのチェック方法は、次の通りです。
- 曲やエチュードをメトロノームなしで1人で演奏し、録音する
- 録音を聴きながら、手拍子をして、手拍子の速さが均等になることを確認
実際にやってみるとわかりますが、意外とテンポキープができていないケースは多いです。
リズミックで細かい音符のある(裏拍にも音が多い)曲は比較的簡単ですが、ゆったりとしたメロディはテンポキープが難しいです。
トリルやターンなどの装飾記号が付くと更に難易度が上がります。
私自身もエチュードを録音しまくって、テンポキープを徹底的に練習した時期がありました。
テンポチェンジ(rit./accel.など)
テンポチェンジには、決められたルールがあります。このルールに従わないと、不自然な演奏になります。
次の楽譜を例に解説します。8分音符のリズムにrit.(だんだん遅く)の記号がついています。
全ての8分音符を均等に遅くしていく
1拍の時間を徐々に長くしていき、裏拍は均等に入れる。
つまり次の音は同じ長さになり、下に行くほど音が長くなる
- 1つ目と2つ目の音の長さが同じ
- 3つ目と4つ目の音の長さが同じ(①より長い)
- 5つ目と6つ目の音の長さが同じ(②より長い)
- 7つ目と8つ目の音の長さが同じ(③より長い)
指揮をイメージするとわかりやすいです。4/4拍子では、指揮者は基本的に、1小節4つの点を演奏者に指示します。
4つの点の間(=裏拍)の場所は、演奏者が場所を探すしかありません。
全ての音を均等に遅くしてしまうと、指揮者が指示できない裏拍の場所を合わせるのは非常に難しいです。
また、均等に遅くしてしまうことで、拍子の感覚も無くなります。(均等に遅くなると、何拍子で書かれていても同じ演奏になってしまうため。)
このルールは、拍子によって変わるので、例えば6/8拍子の場合は、音3つが均等な長さになります。
なお、accel./stringendo/rallentandoなど、テンポチェンジを表す記号については、全て同じルールです。
テンポチェンジのルールから、あえて逸脱することもあるが、多くはない。
あえて逸脱する理由を説明できないなら、このルールに従えばOK。
1-2.拍子感
拍子感のない演奏(=聴いても何拍子の曲かわからない演奏)では、単調な音楽になりがちです。
強拍と弱拍の原則
拍子には、強く演奏すべき箇所(強拍)と、弱く演奏すべき箇所(弱拍)があります。
一般的な拍子の強拍・弱拍の位置は次の通りです。
強拍の位置 | 拍子の種類 | |
2拍子 | 1拍目 | 2/2・2/4・6/8など |
3拍子 | 1拍目 | 3/4・3/2など |
4拍子 | 1拍目 (3拍目) | 4/4など |
5拍子や7拍子などは、上記の2拍子・3拍子・4拍子が組み合わせられていることが多いです。
また、強拍しかない1拍子も存在します。
強拍・弱拍を強調しすぎて、音量差が大きくなってしまうと、かえって不自然な演奏になってしまいます。
強拍・弱拍は、頭の片隅で意識する程度で十分なことが大半です。さりげなく演奏しましょう。
例外
先ほど解説した原則には、例外もあります。例えば、次のような楽譜です。
表記は3/4拍子ですが、実際は2/4拍子が3小節あると考えて演奏します。
また、表記された拍子の弱拍の位置に、アクセント記号(>)が書かれると、表記された拍子とは別の拍子として演奏することがあります。
アクセントは強く演奏することになりますので、弱拍にアクセントがつくと、強拍よりも強く演奏することがあり、強拍が移動したように感じるためです。
1-3.音1つで歌わない(音の後押しをしない)
「歌う」ことを意識したときにやりがちなのが、音を1つ1つで歌ってしまったり、押してしまったりすることです。
この原因の1つに、「音によって吹奏感・抵抗感が違う」ということが挙げられます。
一般的に、低音域は吹奏感・抵抗感が重いため息をたくさん使い、高音域はその逆であまり息を必要としません。
解消するには、全ての音域で、同じ息の使い方・同じ奏法で演奏する必要があります。
全ての音域で、同じ息の使い方・同じ奏法で演奏するには、次の練習が有効です。
次の譜例を参考にしてください。
最初の音から、半音ずつ下がる動きを複数回繰り返します。
半音ずつ下がっていき、自分の出せる最低音域まで繰り返します。
スタートの音はどこでも大丈夫ですが、出しやすい音域の音を選んでください。
半音ずつ上がり、自分の最高音域まで繰り返す練習も同じ要領で行います。
- 半音の動きで、息の使い方・奏法を変えない。
- 半音の間で、音色・響き方が近くなるよう演奏する。
- フェルマータのついた音とその次の音も、息の使い方・奏法を変えない。
- 音色・響きなどで、上手くいかない音が出たら、一旦演奏を止める。
- 上手くいかなかった音が良い音になるように、息の使い方と奏法を変更する。
- 変更した奏法で、最初の音からやり直す。
更に詳しい内容は、こちらの記事で解説しています。
>ロングトーン応用編~サックス・吹奏楽奏者に向けた効果的な練習
サックス上達でお困りなら公式LINEで個別相談受付中!レッスン動画も無料プレゼント!
2.より表現力の高い演奏を目指す
難易度は高めですが、より表現力の高い演奏をするためのヒントを解説します。
2-1.調性
どの調性の音楽をやっているのか理解し、調性によって吹き方を変えることができれば、より高い表現の演奏をすることができます。
どの調性を演奏しているかを知る
どの調性を演奏しているかは、演奏している曲の音の#・♭の位置を確認すれば、ある程度は把握できます。
本気で上達を目指すなら、少しずつでも良いので、長調・短調24個の音階は、暗譜で演奏できるようにするべきです。
サックス奏者向けにはなりますが、このホームページでは、24調の楽譜を無料で提供しています。
#・♭の位置だけでは調性が特定できない場合や、長調・短調以外の音階で書かれているケースもあります。
これは応用編になりますので、まずは基本の24調を覚える練習からしてみてください。
調性に応じて音色を変える
調性によって、1番変化させるのは音色です。
- 長調…明るめの音色
- 短調…暗めの音色
- #系の調…はっきりとした音色
- ♭系の調…柔らかめの音色
これらは傾向ですので、「答え」にはなりませんが、把握しておくと、表現を考えるときのヒントにはなります。
また、多く誤解されがちなのが、「短調=悲しい」なので、短調の曲で音量を抑えたり、ビブラートを少なくしたりする人がいますが、これが常に正しいわけではありません。
「悲しい」という気分は、様々な種類があります。
確かに、辛くて活力がない状態もありますが、怒りに近い、感情が高ぶるような悲しみもあります。
緊張と解放
音楽は、緊張と解放の繰り返しで出来ています。それぞれの音に緊張と解放の機能があります。
- トニック(T)…落ち着き・開放感のある音
- ドミナント(D)…緊張感の高い音
- サブドミナント(S)…ドミナントの次に緊張感の高い音
それぞれどの音が緊張・解放の機能を持つのかは、次の通りです。
その音階の何番目の音かによって、トニック・ドミナント・サブドミナントの機能が決まります。
上記のとおり、同じ「ド」の音であっても、ハ長調ではⅠでトニック、ト長調では、Ⅳでサブドミナントとなります。
そのため、何の調で演奏しているかを把握していないと、トニック・ドミナント・サブドミナントを読み解くことはできません。
1番わかりやすいのは、フレーズの最後の音です。
最後の音がⅠの音の場合、落ち着いた形で終わります。
一方で、Ⅴの音で終わる場合、緊張感が解けないので、まだ先にフレーズがあることを意識して演奏しましょう。
2-2.アクセント
楽譜に書かれていないアクセントを見つけ、表現できるようになると、1ランク上の演奏になります。
アクセントは記号(>)がついている部分だけではありません。
アクセントは記号で明示されていなくとも、次のような箇所で見られます。
- スラーやタイのかかり始めの音
- 拍子の強拍
- フレーズの始まりの音
- 非和声音
- シンコペーション
楽譜に書かれていないアクセントを表現する場合、過度にアクセントをつけず、さりげなく演奏しましょう。
記号で明示されているアクセントほど、はっきり演奏する必要はありません。
譜面に書かれていないアクセントの位置を学ぶには、「演奏のための楽曲分析法(熊田為宏著・音楽之友社)」という書籍がオススメです。
ただし、使われている用語が難解なので、用語解説としては「和声と楽式のアナリーゼ~バイエルからソナタアルバムまで(島岡譲著・音楽之友社)」を手元に置きましょう。
どちらも難しい本なので、根気よく読み進めてください。
2-3.グルーピング
緊張から解放されると、人は感動します。この感動を曲の様々な箇所で行うのが「グルーピング」という考え方です。
アウフタクトがあった場合、次の小節の頭に向かって演奏するように習いませんでしたか?これも1種のグルーピングです。
グルーピングの基本原則
次の楽譜を演奏してみてください。
表拍の音(ドとソ)が大きくなってしまう。
拍を意識しすぎて、表拍が強くなってしまう方が多いです。これでは音楽に推進力が生まれません。
裏拍の音から、表拍の音に向かうように演奏する。
裏拍から次の表拍を、1つのグループとして取り扱います。
「裏拍の音から、表拍の音へ向かう」これがグルーピングの1番の基本原則です。
バロック音楽は、グルーピングがはっきりしている曲が多いので、グルーピング学習の導入に最適です。
グルーピングは頭の片隅に置く程度で十分、やり過ぎるとかえってフレーズが短くなり過ぎてしまう。
フレージングとグルーピングは別物、フレージングはもっと大きな単位。
他の音楽表現と同じで、グルーピングも過度にやりすぎると、かえって不自然な演奏となってしまいます。
グルーピングのバリエーション
ただし、このグルーピングの基本原則には例外も多いです。
同じ楽譜でも、下記のようなアーティキューレーションがついた場合、先ほどと同じグルーピングをすると、アーティキュレーションとの整合性が取れずに、演奏しにくいです。
この場合、次のようにグルーピングすると、自然に音楽が前進していきます。
グルーピングは、リズムやアーティキュレーション、曲のテンポなど様々な要因で、取り方が変わります。
また、グルーピングは音楽解釈の1つなので、奏者によってグルーピングは異なります。他の音楽の要素と同じで、正解はありません。
グルーピングとアーティキュレーション
どのようなグルーピングをしても、アーティキュレーションは楽譜通りです。
先ほど提示した、下記の譜例でも、2拍目表拍の前にはタンギングが必要です。
グルーピングを深く学びたい場合、「オーボエ奏者 マルセル・タビュトーに学ぶ ノート・グルーピング(デイビッド・マクギル著・Stylenote)」をオススメします。
分厚く・高価な本ではありますが、その分内容も充実しているので、非常に理解しやすいです。
「豊かな音楽表現のためのノート・グルーピング入門(J・Mサーモンド著・アルテスパブリッシング)」という本もあります。
短くて手頃ですが、やや言い回しが独特な部分も多いです。
2-4.テクニック・表現の独立
音量・発音・音色・表現など、それぞれに独立したツマミをひねるイメージを持ちます。
小さな音量で演奏した場合
- 小さな音を演奏すると、発音が不明瞭になってしまう
- 小さな音を演奏すると、音色がこもってしまう
悪い例では、「小さな音量」に引きずられて、「発音」や「音色」のツマミも自動で動いてしまっている状態です。
- 小さな音でも、はっきりとした発音で立ち上がれる
- 小さな音でも、硬い音色を選べる
良い例では、小さな音を出すとき難しいとされる、はっきりした発音や硬い音色を選べる状態です。
「音量」「発音」「音色」がそれぞれ独立しています。
「音量」「発音」「音色」などのツマミが独立した状態だと、それぞれ選んで組み合わせるので、選択肢が無数になる。
こうすると歌い方の幅が一気に広がります!
サックス上達でお困りなら公式LINEで個別相談受付中!レッスン動画も無料プレゼント!
3.個別テクニック
表現力のある演奏に聴こえる、歌い方のパターンを解説していきます。
どんな曲であっても、100%適用される歌い方はありません。しかし、歌い方のヒントにはなりますので、参考にしてください。
大きな跳躍
メロディに大きな跳躍があった場合の歌い方を解説します。
初めの音が低音域のケース
始めの音を、後の音よりもしっかり演奏します。楽譜に表記はなくとも、テヌートで演奏するイメージです。
イメージとしては、低い音の演奏は、高くジャンプする前に、膝を大きく曲げている状態です。
後ろの音が高音域のケース
後ろの音を裏声のように演奏します。
裏声は良い意味で繊細・か細い雰囲気が必要です。高音域は、油断すると大きくなりがちなので、注意して演奏しましょう。
低音楽器の下行音形の反行進行
メロディが上行している中、低音楽器が下行している場合、低音楽器は、楽譜に表記はなくても、クレッシェンドを入れます。
上行も下行も強調されると、音楽の広がりを感じます。
クレッシェンドの度合いは、メロディの雰囲気によります。
メロディがクレッシェンドしていなくとも、低音がうっすらクレッシェンドを入れることもあります。
サックス上達でお困りなら公式LINEで個別相談受付中!レッスン動画も無料プレゼント!
4.イメージの重要性
どのような歌い方・表現とするかは、最終的には「頭の中でイメージした音楽を、楽器で表現する」という行為をしているだけです。
具体的なテクニックを解説してきましたが、楽譜を見ながら、どのテクニックが使えるか考えているわけではありません。
自分の中で、理想とする演奏をイメージします。「発音」「音色」「歌い方」など、単体でイメージするわけではありません。
イメージする演奏は、自分の楽器と同じである必要はない。むしろ違う楽器をイメージした方が、表現の幅が広がるかもしれない。
私はサックス奏者ですが、フルート、ヴァイオリン・声楽など様々なイメージで演奏しています。
今から演奏する音楽が、どの楽器だと1番魅力的かを考えたうえで、イメージする楽器を選んでいます。
どんなに技術を磨いても、イメージできていない歌い方や表現はできません。
良い音楽にするためにイメージを磨く、イメージした音を出すために技術を磨く。イメージと技術は楽器上達にとって、車の両輪のようなものです。
イメージを作る練習は、「良い音楽を聴くこと」です。これは楽器を使った練習と同じくらい重要です。
上達につながる音楽の聴き方・イメージの重要性はこちらの記事で詳しく解説しています。
>サックス・吹奏楽部員のための音色改善・イメージの重要性とセンスについて
いろいろな音楽表現を思いついて、実行できる人が「センスがある」と言われます。
たくさんの音楽を聴いて、様々な曲を演奏することでイメージできた表現を試す。その過程で上手くいったものを取り入れながら、さらに良い表現をするために音楽を聴く。
センスは、先天的なものではなくて、磨いていくもの。
まとめ
- まずは「自然な演奏」を(テンポ・拍子・音を押さない)
- 高い表現は楽譜を深く読む(調性・アクセント・グルーピング)
- テクニックや表現は独立させる
- 良い音楽を聴いて、イメージ力を磨く
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
サックス初心者が最短で中・上級者になるためのメソッドをこの1冊に詰め込みました。
以下のリンクから冒頭の数ページを無料で読むことができます。(Kindle unlimited会員は全て無料で読めます。)