サックスの指回しには、一般の書籍などでは解説される機会の少ない、細かなテクニックや注意点があります。
また、リードミスや音が外れる原因は、アンブシュアや息と考えられがちですが、実は指回しが上手くいかない場合でも起こります。
私バージェスが考える、サックスの指回しのポイントはこちら!
・手首の外転状態を避ける
・常にテキパキ指を動かす(特に遅いテンポの曲でも)
・動かしにくい指から、音が外れる原因を特定する
私自身、レコーディングなどミスが許されない状況で、今回解説する知識が非常に役に立ちました。
音が外れる原因を知っているだけでも、大きなアドバンテージとなります。ぜひ最後までお読みください。
(前提)正しい指使いで演奏する
速いパッセージを演奏するには、正しい指使いで演奏することが望ましいです。(むしろ不可欠です。)
一般的には「替え指」と言われている運指で演奏することが、実は「正しい指使い」のケースもあります。
遅いパッセージを演奏するときから、正しい指使いを使うことを習慣にしましょう。
正しい指使い・替え指については、こちらの記事で解説しています。
また、正しい指使いはこちらの「Perfect Scale for Saxophone vol.1 Basic」を使って、音階の中で学ぶことができます。
1.正しいフォーム
効率よく指を動かすためには、正しいフォームが必要不可欠です。
1-1.手首を外転状態にしない
手首には、次のように内転と外転と呼ばれる動きがあります。
左の手のひらをテーブルに乗せ、手首を内転・外転させて、指を動かしてみてください。
結果は次のようになります。
外転→指が動かしにくい
内転→指が動かしやすい
左手パームキーをおさえるときに、手首が外転していないか注意してみてください。
パームキーの上から、手をかぶせるようになっていると、外転している可能性があります。
外転状態になっていると、指は動かしにくいです。ピアニストも手首が外転状態にならないよう注意しています。
ちなみに右手首は、サムフック(親指をかける場所)で固定されるので、手首の外転の動きは使いません。
手首が、外転状態にならないように構える
1-2.指はいつでもテキパキ動かす
サックスを演奏するとき、指はどんな時でも”テキパキ”とはっきり動かすことが重要です。
指が遅いと、音の移り変わりが不鮮明になるためです。例外はないので、ある意味シンプルに考えられます。
キーを離すときにも意志をもつ
テキパキ指を動かすために、素早くキーを「離す」ことにも意識を向けてみましょう。
キーを「押す」という作業は意識しやすいですが、キーを「離す」という作業はおろそかになりがちです。
テンポの遅い曲・歌うような曲であっても、指回しをはっきりと
特にテンポが遅い曲や歌うような曲は、指を動かすスピードも遅くなってしまいがちです。
テンポの遅い曲の雰囲気と指が連動してしまうためです。
指は曲の雰囲気に関わらず、独立して動くように意識して練習してみましょう。
速い連符も全て言い切るつもりで
速い連符、特に音階など比較的簡単に速く吹けるフレーズは、流れてしまいがちです。
音1つ1つを喋るイメージで、はっきり指を動かすことを心がけましょう。
1-3.キーを押さえ過ぎない
息が漏れていなければOKなので、サックスのキーは、そこまで大きな力を入れて押さえる必要はありません。
過度に力が入ってしまうと、キーを離す動きにスムーズに移行することができません。
キーを押す動きと、キーを離す動きは逆方向に力をかけるからです。
サックスを「握る」ようにキーを押さえる場合は注意が必要です、どちらかと言えば「触る」というイメージに近いです。
凄く地味だけど、こういった積み重ねが一瞬を争う速いパッセージでは命とり。おろそかにしないこと!
2.指回しの注意点
音を外したり、リードミスのような音が鳴ってしまったりする場合、指が原因となっていることも多いです。
ここからの解説は、サックスのキー名称の知識が必要になります。キー名称が分からない場合、以下のリンクを参考にしてください。
2-1.1番キー(左手人差し指)
解放のド#やパームキーを使った高音域を演奏したとき、左手人差し指と、1番キーが大きく離れてしまいがちです。
その結果、1番キーを押さえるのが遅くなり、次のような楽譜でファ#が外れる場合、 左手人差し指でキーを押さえるのが遅れている可能性が高いです。
わざと1番キーを遅く押さえて、同じように音が外れれば、原因が特定できます。
左手人差し指を、他の指より速く動かすつもりで演奏する
左手人差し指をキーから離し過ぎないようにする
2-2.3番キー(左手薬指)
薬指はもともと動かしにくい指ですが、2番キー(左手中指)をふさいだ状態で中指が固定されると、更に動かしにくくなります。
例えば、次のような楽譜でレの音が外れる場合、左手薬指でキーを押さえるのが遅れている可能性が高いです。
わざと3番キーを遅く押さえて、同じように音が外れれば、原因が特定できます。
左手薬指を、他の指より速く動かすつもりで演奏する
2-3.パームキー
パームキーを使う高音域から、使わない音に下がるときに、下がった音が外れることがあります。
この場合、パームキーが塞がりきる前に音を出している可能性あります。
音と音の間に、キーを開放した音(ド♯)を入れるつもりで演奏する
パームキーと右手のキーを同時に動かす運指の場合、高音が外れやすいです。
左手のパームキーを、右手のキーよりも速く押すつもりで演奏する
逆に右手が若干遅れてしまっても、音は外れないことが多いです。
前述した「手首を外転させない」ことに気を付けると、これらの注意点は防げることが多いです。
2-4.オクターブキー
オクターブキーを押した音から、押さない音へ移る時、レガートでつなぐのは難しいです。(下の譜例のような形です。)
この場合、オクターブキーを早めに離すと、上手くつなぎやすいです。オクターブキーを使った音(上の譜例だとレの音)を吹いている間に、オクターブキーを離します。
オクターブキーを使わない低音に移るとき、少しでもオクターブキーを外すのが遅れると、レガートでつながりません。
オクターブキーを押さなくとも、オクターブ上の音を出すのは、割と簡単にできます。であれば、オクターブキーを先に外してしまう、という考え方です。
オクターブキーだけを先に外すのは、練習を積まないと、意外と難しい
オクターブキーは、楽譜のリズムと関係ない場所で外しますので、テンポ感や拍感がなくなる危険性もあります。
難しい場合、「ハーフタンギング」を使うという手段もあります。
ハーフタンギングとは、リードと舌が触れた状態で音を出す演奏法のことです。ごくわずかに舌をつくことで、 オクターブキーを使わない低音を出しやすくします。
ハーフタンギングについては、こちらの記事で詳しく解説しています。
3.指回しに関する誤解
「連符がきれいに並んでない=指回しが上手くいっていない」とは限りません。
連符がきれいに並んでいない理由が、どこにあるのか。まずは理解することが重要。
3-1.譜読みに頭が追い付いていない
連符で指が回らない主な理由は、次の2点です。
- 指が難し過ぎて動かない
- 楽譜を読むのに、頭が追いついていない
指が回らない理由は①と考えがちですが、実際は②のパターンも結構多いです。
①のパターンで苦労するのは、同時で動かす指が多い(真ん中ド→レの動きなど)か、クロスフィンガリング(指を上げる動作と下げる動作を同時に行う)場合くらいです。
楽譜を読むのが遅い人は、音階練習をオススメします。 ♯や♭が付きやすい音の傾向がわかり、音を読むスピードが上がります。
音階練習のメリットや重要性は、こちらの記事で解説しています。
>【意味ある?】サックスの音階・スケール~練習の意味と選ぶべき教本
3-2.指は動いているけど、音になっていない
例えば、連符内の低音が、息圧が足りず鳴らなかったとします。この場合、指は正しく動いていたとしても、連符がきれいに並びません。
この例のように、指でなく息をはじめとする演奏法が原因で、連符がきれいに並ばないことがあります。
しかし速い動きでは、演奏する音域ごとに演奏法を切り替えるのは、非常に難しいです。
演奏法を変えずに、低音域も高音域も鳴らせるようにしておく
どの音域でも同じ奏法で鳴らすことができれば、あとは指がしっかり回れば、速いパッセージも演奏できます。
全ての音域で同じ奏法で演奏できるようにするには、ロングトーンが最適です。具体的な練習方法については、こちらで解説しています。
>ロングトーン応用編~サックス・吹奏楽奏者に向けた効果的な練習
(番外編)指回し専用の教本・エチュード
サックスにおける指回しの教本で推奨できるのは、次の教本です。(私自身も使用しています。)
サクソフォンのための25の日課練習(クローゼ)
サックスのテクニック用教本として、初級に分類されるものです。初級ではありますが、吹奏楽の曲しか普段やらない方には、かなり難しく感じるかもしれません。(私自身、「これが初級か」と驚いた記憶があります。)
クローゼの教本に関しては、こちらの記事で詳しく解説しています。
>【クローゼ:25の日課練習】効果的な練習方法とメリット~サックス教本・エチュード解説
サクソフォンのための18の技術練習(ベルビギエ)
サックスのテクニック用教本で、中級~上級に分類されます。かなりハイレベルな内容で、跳躍も多いです。
サックスの教本全般を解説したこちらの記事で、ベルビギエの解説も行っています。
>サックスのエチュード・教本〜おすすめとやる順番(初心者~上級者)
トレヴァー・ワイ フルート教本 第2巻
フルートの教本ですが、この中にある「マキャヴェリ流練習課題」というのが、特に効果的です。
「マキャヴェリ流練習課題」 とは、音階の中から、いくつかの音を取り出し、繰り返し演奏します。
一部やりにくい音の並びがありますが、それを克服すると、指回りが劇的に改善します。
まとめ
サックスの指回しのポイントは次の通りです。
- 替え指を含めた正しい運指を学ぶ
- 手首を外転状態にしない
- 指はテキパキ動かす
- 連符がきれいに並ばない原因は、指だけとは限らない
最後までお読みいただき、ありがとうございました。