サックスの上達方法はたくさん出ていますが、「特に吹奏楽ではこのように演奏すべき!」という情報は少ないと思いませんか?
サックスの上達方法は、ソロでの演奏を念頭に置いて書かれているものも多いです。それを鵜吞みにして吹奏楽で演奏をしてしまうと、周りと音が合わなくなってしまうことがあります。
そこで吹奏楽でのCDレコーディング30枚以上、1000曲以上の吹奏楽曲を演奏した私が、サックスを吹奏楽で演奏するときに特に注意すべきポイントをまとめました。
また記事の最後には、私自身が実際に演奏した曲の中から、サックスにソロがある曲を紹介していますので、選曲の参考にしてみてください。
吹奏楽コンクールで上位を狙ったり、バンド全体で良い音を出したりするためには、必須の知識です。ぜひ最後までお読みください。
1.吹奏楽のサックスの吹き方
吹奏楽でサックスを演奏するときは、大きく分けて次の3パターンの吹き方を使い分けます。
- 他の楽器に溶け合わせる・他の楽器を引き立てる
- サックスが主体となって音楽を作る
- サックスと他の楽器が同等になるように演奏する
この3パターンを演奏する曲のジャンルや、フレーズなどによって吹き分けます。
メロディが出てきた!よっしゃ大きく吹こう!
ちがーーう、周りの楽器や音楽の雰囲気を考えてから、判断するんだ!
1-1.他の楽器に溶け合わせる・他の楽器を引き立てる
サックスらしい音色を使わず、他の楽器を引き立て、響きをプラスすることに徹します。
クラシックの曲を演奏する際に、多く使われます。合わせるべき楽器は、次のパターンが多いです。
- アルトサックス…クラリネット・フルート・オーボエ・トランペット・ホルンなど
- テナーサックス…ユーフォニアム・ホルン・トロンボーンなど
- バリトンサックス…バスクラリネット・チューバなど
このパターンでは、周りの音を特に注意して聴きます。音色はもちろんですが、歌い方などの表現も合わせます。
主旋をとるパートはどこなのか、そのパートはどのように演奏するのかを、先回りして考え、はみ出ないように演奏します。
自分のパート譜は、合奏までにきちんと演奏できるよう準備する
自分の楽譜を演奏することだけで精一杯では、他のパートを聴く余裕は生まれません。
他のパートがどのような演奏をするかは、合奏でしか分からないので、自分のパートは余裕で吹けていないと、良い演奏にはなりません。
目立つわけではないので、練習をおろそかにしがちですが、ある意味ソロより難しいのがこのパターンです。
1-2.サックスが主体となって音楽を作る
サックスの音色を主体にして、他の楽器に響きをプラスしてもらうパターンです。
先ほど解説したパターンの逆となります。
このパターンでは、サックスパートとして、どう表現したいのか、他のパートにはっきりと示す必要があります。
他のパートがサックスに合わせてくれている状態なので、どう吹きたいのかをはっきり示してくれた方が、他のパートが演奏しやすいです。
サックスが他のパートをしっかりリードする。
道案内すべき人が道をわかっていないと、グダグダになるのと同じです。
1-3.サックスと他の楽器が同等になるように演奏する
サックスと他の楽器がそれぞれで演奏、複数の音色がしっかり鳴っている状態です。
先に解説した2つのパターンは、複数の楽器の音色が溶け合い1本の音に聴こえるのに対し、サックスと他の楽器が溶け合う必要がありません。
ただし、次の3点は注意しましょう。
- パートごとに音は鳴っていても、歌い方はそろっている
- パートの中ではそろっている(個々人の音がバラバラで聴こえるのはNG)
- パートごとの音量バランス(全ての楽器が聴こえている状態)
このパターンは、原曲がビックバンドジャズの曲などに多く見られます。
1-4.吹き分けるポイント
上記3パターンの音色を吹き分けるコツは、次の通りです。
- 発音
- 音色
- 音量バランス
発音
発音は音楽の印象を決める、重要な要素です。
仮に音を録音して、音の始まりを切り取る編集をすると、何の楽器を演奏しているのか分からなくなります。
- 柔らかく発音する…ほかの楽器と溶け合いやすい(1-1.のパターン)
- 明確に発音する…サックスらしさを出しやすい(1-2.1-3.のパターン)
音の立ち上がりのコツは、こちらの記事でまとめています。
音色
サックスの音色は、基本的に息のスピードで変化させます。
- 柔らかい音色(遅い息)…ほかの楽器と溶け合いやすい(1-1.のパターン)
- 硬い音色(速い息)…サックスらしさを出しやすい(1-2.1-3.のパターン)
息はしっかり入れる必要があるので、「速い息」「遅い息」というよりは、「速い息」「より速い息」と分類する方が良いかもしれません。
2つの息のスピードに大きな差はなく、微妙な変化となります。
息づかいは呼吸法が肝です。呼吸法については、こちらの記事で詳しく解説しています。
>管楽器の呼吸法 第1回~腹式呼吸の復習と「吸気主動」という新しい考え方
音量バランス
他のパートと比較することで、自分のパートの音量が決まります。
fやpなどの書いてある強弱記号も大切ですが、周りを聴くことも忘れないようにしましょう。
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2.吹奏楽とビブラート
吹奏楽では、ビブラートをかけない演奏が原則です。
サックスのビブラートは奏者個人の音を強調する働きがあるため、音を調和させる吹奏楽には不向きです。
ビブラートをかけた音は、音程に動きができるため、ビブラートをかけていない音よりも目立ちます。動いていない物より、動きのある物の方が目につきやすいのと同じです。
弦楽器のビブラートは、複数人でかけると響きが増幅されるので、推奨されています。
指揮者の指示など、特別なケースでない限りは、吹奏楽ではビブラートを使いません。
ただし、次のような箇所は、ビブラートをかけても問題ありません。
- ソロ
- サックスのみ・サックス主体のアンサンブル
- 原曲もサックスのビブラートを多用している曲(グレンミラーなど)
ビブラートが必要になったら、こちらの記事を参照してください。ビブラートのかけ方の初歩から、表現力を上げるためのビブラートの使い分けなど、詳しく解説しています。
>サックスのビブラート~かけ方の基礎・上級テク・練習の盲点まで完全解説
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3.吹奏楽で使われるサックスの種類と演奏の注意点
ここからは、各楽器ごとの演奏のポイントを解説していきます。
3-1.アルトサックス
吹奏楽でアルトサックスを担当したときの演奏ポイントは、主に次の2つです。
メロディと伴奏の切り替え
アルトサックスは、ソロが多いため吹奏楽の花形楽器の1つとされますが、意外と伴奏パートをとることが多いのも特徴です。
メロディ→伴奏へ、伴奏→メロディへ役割の移り変わりが多いため、切り替えが大切となります。
切り替え方法は、前述した通り次の3つを中心に吹き分けます。
- 発音
- 音色
- 音量バランス
1stパートと2ndパート
また、アルトサックスは1st・2ndパートに分かれていることが多いですが、誤解されがちなのが2ndパートの演奏方法です。
2ndパートが1stパートのハモリを担当する場合、1stパートよりも大きめに演奏する
ハモリがある2声の演奏は、両方の声部の音程が聴こえている方が美しいです。
高い音程の方がどうしても聴こえやすいので、2ndパートは1stパートより強めに演奏するくらいがちょうどよいのです。
ただし、2ndパートが低いミの音よりも下に行く場合は、楽器の構造上、鳴り過ぎてしまうことがあるので、バランスに注意します。
また、ハモリの音程は広くとるのが原則です。(1stがやや高め・2ndがやや低め)ハモリの音程感はこちらの記事で詳しく解説しています。
>サックス・吹奏楽の音程の取り方・コツ~和音の取り方と演奏方法
3-2.テナーサックス
吹奏楽でテナーサックスを担当したときの演奏ポイントは、主に次の2つです。
対旋律の演奏法
テナーサックスは、対旋律のパートをとるケースが多いです。対旋律は、メロディ並みに歌って演奏することが重要です。
メロディに対して、「対旋律のパートはこう吹きたい」と強く主張するイメージです。
メロディを引き立てる脇役に徹して、表現を抑えてしまう演奏も多いですが、対旋律からも主張した方が、メロディも乗せられて、かえって吹きやすくなります。
また、対旋律はやや高めの音程で演奏した方が効果的です。地面につかない、宙に浮いたようなイメージで演奏することが多いためです。
対旋律の音程の取り方は、メロディの音程の取り方に近いです。メロディの音程はこちらの記事でも解説しています。
木管らしい音色
吹奏楽のテナーサックスは、木管らしい柔らかなサウンドを多く求められます。
テナーサックスと同じ音域を担当する吹奏楽の楽器は、以下の通り金管楽器が多いからです。
- ユーフォニアム
- トロンボーン
- ホルン
アルトクラリネットもありますが、特殊楽器扱いなので、登場する機会は少ないです。また、ファゴットも同じパートをとることはありますが、低音楽器と同じ動きが多いです。
3-3.バリトンサックス
バリトンサックスは、ベースラインを担当し、チューバの1オクターブ上を演奏することが多いです。
ベースラインの演奏のコツは次の通りです。
- 他のパートよりも速く音を立ち上がる
- 音程は若干低めにとる
- 打楽器を聴いて、音の雰囲気を揃える
特に重要なのが、①の「速く音を立ち上がる」という点です。
これができると、音楽にグルーヴ感(高揚感のようなもの)が生まれ、演奏が劇的に変化します。この役割はベースラインにしかできません。
ベースラインの演奏のコツは、次の記事により詳しくまとめています。
>バリトンサックス・低音楽器の演奏のコツ~吹奏楽指導者も必見
また、バリトンサックス特有の演奏技術は、次の記事にまとめています。
3-4.ソプラノサックス
吹奏楽では特殊楽器の取り扱いとなるので、ソプラノサックス特有の音色を前面に押し出すことを、意図して書かれている曲が多いです。
そのため、他の楽器と溶け合わせるより、ソプラノサックスらしい音色を使うケースが多いです。
ただし、ソプラノサックス自体の難易度が高いので、魅力的な音色にするためには、かなりの練習が必要です。
ソプラノサックス特有の上達法をまとめた記事がありますので、こちらも参考にしながら練習していってください。
しかし、他のパートに溶け合う音色が求められることもあります。ソプラノサックスの音色は浮きやすい(=溶け合いにくい)ので、かなりの技術が必要になります。
ソプラノサックスを使う場合、難易度が明らかに高い。持ち替えで使う頻度が少なくても、練習時間は多くとるべき。
ソプラノサックスに苦手意識のある人は、単純に他のサックスより練習時間が少ないから。
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4.【注意】吹奏楽で使う教本
4-1.吹奏楽の教本の定番と練習時の注意
吹奏楽の教本は、吹奏楽団全体のサウンドを向上させるために書かれた教本です。(サックスの上達が主眼ではありません)
定番は「3Dバンドブック」や「JBCバンドスタディ」です。多くの団体で使われる名著です。
吹奏楽の教本は、バンド全体の音を作る目的。奏者の「耳を鍛える」ことで、バンド全体の音が良くなる。
- 周りを聴いて、自分の音色をバンド全体に溶け込ませる
- 周りを聴いて、音程をそろえる
- 周りを聴いて、バランスを整える
自分のパート譜は、合奏までにきちんと演奏できるよう準備しましょう。
自分の楽譜を演奏することだけで精一杯では、他のパートを聴く余裕は生まれません。
4-2.吹奏楽の教本とサックスの教本は併用すべき
吹奏楽の教本は、吹奏楽団全体のレベルを向上させるためには有効ですが、サックスの上達には適していません。
- 吹奏楽の教本…狭い音域(1オクターブ)で書かれている
- サックスの教本…サックスの通常音域全て(2オクターブ半)で書かれている
広い音域で音階練習をしないと、低音域・高音域が演奏できるようになりません。
こちらがサックスの上達に直結する教本の1例です。吹奏楽向けの教本だけでなく、これらの教本も必ず併用して練習するようにしてください。
個人スキルの向上も、吹奏楽団全体のレベルアップにつながります。
こちらの記事で、サックス吹きが使うべき教本の一覧・それぞれの教本の特徴など、より詳しく解説しています。
>サックスのエチュード・教本~おすすめとやる順番(初心者~上級者)
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まとめ
吹奏楽で演奏する際に、特に注意すべきポイントをまとめてきました。
- サックスが主張すべき箇所か、そうではない箇所かを考えて演奏する
- 吹き分けるコツは「発音」「音色」「音量バランス」
- ビブラートは基本使わない
- サックスの教本と吹奏楽で使う教本は別物
【番外編】サックスにソロのある曲
最後に番外編として、サックスにソロのある曲を紹介します。
各動画の下にある時間から、サックスソロが始まりますので、選曲の参考にしてください。
アルトサックスソロがある曲
アルトサックスにソロのある曲は非常に多く、ここには挙げきれないほどです。1つコンサートをやって「アルトサックスにソロが全くない」という方が珍しいくらいです。
ここでは定番の曲を紹介していきます。
宝島
アルトサックスのソロのある吹奏楽曲として、1番有名なのはおそらくこの「宝島」です。
後半のアドリブソロの部分は、奏者によってさまざまなアレンジがなされます。
速いパッセージの中で、フラジオを使用するため、記譜通りに演奏するのは難易度が高いです。(フラジオ部分はオクターブ下げての演奏も可能です。)
アルメニアンダンス・パート1
吹奏楽曲の中で最も有名な「アルメニアンダンス・パート1」でも、アルトサックスのソロがあります。
変拍子の強拍を意識して演奏してみてください。2拍子+3拍子→3拍子+2拍子が交互に表れますので、それぞれの2拍子・3拍子の頭を意識します。
ただし、意識しすぎると、かえって不自然になるので注意してください。
たなばた
織姫をアルトサックス、彦星をユーフォニアムに見立て、それぞれ美しい旋律を奏でます。
目立たないですが、アルトサックス1stには、ソロ部分以外でフラジオが登場していて、演奏難易度は高めです。
テナーサックスソロがある曲
アルトサックスと比較して、テナーサックスのソロは意外と多くありません。
吹奏楽のための木挽歌
冒頭からテナーサックスのソロがあります。
息を上手く抜いて、「和」のテイストを表現したいです。
吹奏楽のための「エレジー」~序奏とフーガ~
マイナーな曲ではありますが、個人的にオススメの1曲です。
バロック音楽を彷彿とさせ、吹奏楽の世界では独特な世界観がありますが、美しい楽曲です。小編成でもチャレンジできます。
塔の上のラプンツェル・メドレー
吹奏楽のポップスアレンジで、代表的なテナーサックスのソロがあるのがこの曲です。
中盤の緩やかな部分にソロがあります。
バリトンサックスソロがある曲
バリトンサックスにソロは多くはありませんが、個性的な代表曲があります。
交響曲第3番(バーンズ)
第2楽章に技巧的なソロが、第3楽章には独奏部分(伴奏がなく、バリトンサックス1本で演奏)があります。
大曲で編成も大きく、難易度も高いので取り上げるのはなかなか難しいですが、バリトンサックス奏者にはぜひ挑戦してほしい曲です。
ディープ・パープル・メドレー
ポップスのバリトンサックスのソロの定番です。
こちらで紹介している音源は楽譜通りの演奏ですが、東京佼成の音源で演奏されているアドリブソロも人気です。
ソプラノサックスソロがある曲
ソプラノサックスがある吹奏楽曲は、編成も大きく、難易度が高い曲が多いですが、それだけに名曲も多いので、機会があれば是非チャレンジしてください。
宇宙の音楽
グレード6(※)と吹奏楽曲としては最高難易度の1曲です。
グレードとは、吹奏楽曲の難易度を示す数値で、1~5の5段階(1が易しい・5が難しい)で表記されます。
5段階で表記されるはずなのに、グレード6と表記される曲がまれにあります。難易度はお察しください…
7つのセクションに分けられる中、3つ目のセクションは、ソプラノの美しいソロを中心に曲が展開していきます。
ミュージカル「ミス・サイゴン」より
ベンド(音を曲げる)という特殊奏法を使って、印象的なソロを奏でます。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
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