サックス奏者が悩みがちな、アンブシュアの作り方についての全てを解説します。
まずは、次の5項目に分けて、アンブシュアの作り方を詳細に解説します。
- 下唇の巻き方
- マウスピースをくわえる深さ
- 口の中の状態と舌の位置
- 顎(あご)の使い方
- 唇と口の周りの筋肉の使い方
次に理想のアンブシュアと、より良いアンブシュアにするための研究方法も紹介していきます。
- サックスのアンブシュア作りについて、基礎から全て知りたい。
- アンブシュアについて特定の悩み(噛みすぎてしまう、など)がある。
- 音色やタンギングに悩んでいて、アンブシュアを見直したい。
「どのように音楽を表現しようか」を考えることは有意義ですが、アンブシュアで悩むというのはあまり本質的とは言えません。
私もアンブシュアは悩み、試行錯誤してきましたが、これから解説する内容が実践できた今となっては、アンブシュアに関しての悩みはありません。
ぜひ最後までお読みいただき、皆さんにもアンブシュアの悩みから解放され、音楽に没頭できるようになってほしいです!
【前提】アンブシュアとは
アンブシュアは管楽器を演奏する際の口の形のこと、サックスで言うとマウスピースのくわえ方です。
「マウスピースのくわえ方」と一言で言えますが、そう単純な話しではありません。
なぜならアンブシュアは、単に口の形だけでなく、口の中や喉の状態・口の周りの筋肉・くわえる深さなど、考えるべき要素は多岐にわたります。
単に「アンブシュア」と1つの奏法として考えるのではなく、1つ1つの要素を丁寧に見ていくことで、良いアンブシュアが作られます。
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1.基本のアンブシュアの作り方
まずはサックスのアンブシュアの作り方を、身体の部位ごとに解説していきます。
身体の部位ごとに、より詳細な内容のリンクも準備しています。ぜひ、ご自身の悩みに合わせてご活用ください。
1-1.下唇の巻き方・巻き加減
下唇は深く巻きすぎない
唇の柔らかい部分を使い、リードと一緒に振動するクッションの役割とする
下唇は深く巻きすぎない
唇の中心は柔らかく、顎の方に向けて徐々に硬くなっていきます。
サックスは「リードの振動で音が出ている」というのはご存じですよね?
唇の硬い部分と触れてしまうと、リードの振動を妨げるため、必然的に下唇は浅く巻くことになります。
深く巻くと、リードに触れる部分が唇の硬い部分となってしまうからです。
良い状態だと、下唇はリードと一緒に振動をしている、金管楽器のような感覚がある。
ダブルリップとシングルリップ(シンリップ)
ダブルリップとは、下唇と上唇を両方同じように巻いて演奏する方法です。一方で下唇だけ巻く通常のアンブシュアをシングルリップ(シンリップ)と呼びます。
ダブルリップで演奏すると、マウスピースの噛み癖が治ります。実際にやってみると分かりますが、ダブルリップで演奏するとかなり噛みにくいです。
ダブルリップで演奏することで、噛まずに音を出す感覚を身につけることができます。
クラシックや吹奏楽の世界では、ダブルリップを実際の演奏で使うことはありませんが、練習の一環として取り入れるのは有効です。
ジャズの世界では上唇も下唇も、両方巻かない「ファットリップ」と呼ばれる奏法もあります。
リードの振動をより妨げないので、太く大きな音が出しやすいのが特徴ですが、クラシカルな音色を出すには不向きです。
より詳しく学びたい方へ
下唇の巻き方について、より詳細な内容はこちらの記事をご覧ください。
1-2.マウスピースをくわえる位置
一般的な基準を知る。
浅めにくわえた時・深めにくわえた時それぞれに特徴があるので、自分の好みで選ぶ。
マウスピースをくわえる位置によって、吹奏感や音色が変わります。
これらは演奏者の好みによるので、「何cmが正解」という考え方はありません。
マウスピースをくわえる一般的な位置
一般的な位置は、次の表の通りです。
ソプラノ | 0.8cm |
アルト | 1cm |
テナー | 1.2cm |
バリトン | 1.2cm |
この基準をもとに、これより浅くくわえた場合、深くくわえた場合の特徴を解説します。
基準より浅くくわえた場合・深くくわえた場合
特徴は次の通りです。
- 息を吹き込んでも音色が暴れない
- 音色は暗く、柔らかめ
- 息はそんなにたくさんいらない
- 音色は明るくなる
私の場合、大体ソプラノは0.6cm、アルト・テナー・バリトンは0.8cmでくわえている。
より詳しく学びたい方へ
マウスピースをくわえる深さについて、より詳細な内容はこちらの記事をご覧ください。
>サックスのアンブシュア~マウスピースをくわえる深さについて
1-3.口の中の状態と舌の位置
口の中はできるだけ狭い状態をキープする。
口の中を狭くするメリット
口の中を狭くして演奏するメリットは次の2点です。
- タンギングがしやすくなる
- 息の圧力が高くなる
口の中が狭いと、舌が動ける範囲が狭くなるので、舌が余計な動きをする空間がなくなります。
速いタンギングができない、タンギングが汚い、という悩みは、舌が動き過ぎてしまっていることが多いです。
また、口の中を狭くすると、息の出口が狭まります。
ホースを絞ると水圧が高くなるのと同じで、息の出口である口元を狭くすると、息の圧力が高まります。
当然、頬(ほっぺた)を膨らますのはNGです!
確かにプロ奏者で頬を膨らます方もいますが、基礎の段階では真似をしない方が無難です。
口の中を狭くする方法
「イ」と発音するような口の形で、できるだけ口の中を狭くした後、「ウ」と発音するように口先をすぼませます。
アンブシュアは「イ」と「ウ」の中間という説明もありますが、口の中だけ見れば、かなり「イ」寄りの口の形となります。
「イ」寄りの口の形であっても、マウスピースに噛みついてしまってはダメ。
どうしてもマウスピースを噛んでしまう場合、口の中は「エ」という発音にしてみましょう。「エ」なら噛むことも、口の中が広くなることもありません。
しかし可能であれば口の中は狭い方が理想ですので、舌の位置を動かさない「エ」よりも、舌を上顎方向に持ち上げる「イ」の方が望ましいです。
噛みつき奏法は、デメリットが多いです。詳細は顎の使い方の際に解説します。
舌の位置
舌の位置は、次のように設定します。
- 舌の奥を持ち上げて、上顎に近づける
- 舌の先端だけ、下の前歯の歯と歯茎の境目くらいの位置に軽く当てる。
次の図のような状態となります。
「喉を開く」はデメリットも
よく楽器を演奏する際は、「喉を開くように」と言われます。喉を開くこと自体は間違えていませんが、ほとんどの人が喉を開きすぎています。
喉を開こうとすると、舌が「オ」と発音したように下がるのが分かりませんか?(実際にやってみるとよく分かります!)
こうなると口の中が広くなってしまいがちで、前述した口の中を狭くするメリットを享受できません。
喉の開き具合は、合唱などで歌うときと同じ程度で十分です。地声と歌を歌うとき、喉の状態が違いますので観察してみてください。
歌うときと同じ程度だけ、喉を開けば舌が下がるほど喉が開かないのが分かります。「喉を開く」と「口の中を狭く」は共存します。
喉の使い方についてはこちらの記事を参考にしてください。喉を使うと音程まで良くなります。
より詳しく学びたい方へ
口の中の状態について、より詳細な内容はこちらの記事をご覧ください。
>サックスのアンブシュア ~口の中と舌の位置、タンギングの苦手を無くす
1-4.顎(あご)の使い方・噛まないアンブシュア
マウスピースに噛みつかないのが大前提
歯並びによっては、少し顎を前に出して、上下の歯の位置を揃える役割も
噛みつき奏法について
噛みつき奏法は、デメリットが多いので、避けましょう。
- 下唇の裏側が痛くなる
- リードの振動を妨げてしまう
- 口周りに力が入ってしまい、タンギングやビブラートに支障が出る
- アンブシュアが固定されがちで、音色の変化をつけられない
- ビブラートでは、音程を下げる方向にしか変化させられない
ただし、初心者の場合は、噛みつかないと音が出ない場合があります。そのときは噛みついても良いので、まずは音を出すことに専念しましょう。
そこから少しずつ、噛む力を弱くするように練習していきます。
噛みつき奏法の克服
まずはマウスピースやリードのセッティングが重すぎないか疑ってみてください。
リードの番手を下げるか、リードをほんの少し下げてセットしてみると、抵抗感が軽くなり、噛まずに楽に音が出るようになります。
また、顎でマウスピースに噛みつくのではなく、口の周りの筋肉を使って、マウスピースを支えることで演奏できます。(詳細は「唇と口の周りの筋肉の使い方」の部分でこの後に解説。)
顎はサックスを吹くうえではあまりに大きな力があります。
少し力を入れただけでもリードの振動はすぐに妨げられるので、マウスピースに触れる程度で十分だと考えてください。
下唇がすぐに痛くなってしまうのは、明らかに噛み過ぎです。
演奏で顎を使う局面
多くの人が下の歯より、上の歯が前に出ているはずなので、上下の歯の位置を揃えるために、顎を少しだけ前に出してください。
上下の歯がまっすぐ並ぶことによって、息もまっすぐに入るようになります。
また、顎を動かすと息の方向が変わります。それを利用して、顎を動かして息の方向を変えることで、音程を補正することもできます。
演奏中にやること | 息の方向 | 効果 |
顎を前に出す | 息が上向きになる | 高音が当たりやすい 音程が高くなりやすい |
顎を後ろに引く | 息が下向きになる | 低音が当たりやすい 音程が低くなりやすい |
演奏中に顎を動かすのは、応用的な内容です。アンブシュアが安定していないうちは、やめましょう。
より詳しく学びたい方へ
顎の使い方について、より詳細な内容はこちらの記事をご覧ください。
>サックスのアンブシュア 〜顎(あご)の使い方・下唇の痛みからの脱却方法
1-5.唇と口の周りの筋肉の使い方
唇と口元の筋肉で、マウスピースを360°包みこむ
顎の上下運動でマウスピースを噛んでしまわないように、唇の筋肉だけでマウスピースを包み込むようにアンブシュアを作ります。
具体的には、「ウ」と発音するときと同じ口元の使い方です。
口の中をより狭くするために「イ」の発音を推奨しましたが、口先は「ウ」とします。
この唇・口元の使い方で得られるメリットは次の通りです。
- マウスピースに噛み付かなくても、演奏することができる
- 息の出口が狭くなる
口の横から息が漏れる
口を縦に動かすのは食べる時などに使いますが、口の横の筋肉は日常生活で使うことはありません。
そのため口の横の締め具合が弱く、そこから息が漏れてしまうケースがあるのです。
前述したように、息は漏れないようなるべく細くまとめて入れるようにしましょう。
それでも息が漏れたり、横の締めが足りないと感じた場合、筋トレをしましょう。
口を大きく「イ」→「ウ」の順番で早く動かすと鍛えることができます。
より詳しく学びたい方へ
唇・口元の筋肉の使い方について、より詳細な内容はこちらの記事をご覧ください。
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2.【上級編】柔軟なアンブシュア
より良い演奏するには、状況に応じて、ここまで解説してきたアンブシュアを微妙に変化させる必要があります。
2-1.理想のアンブシュア
理想はそのとき演奏する音楽・楽譜の内容によって、演奏しながらアンブシュアを微妙に変化させることです。
上手な人は、「唯一無二の良い1通りのアンブシュアで、常に演奏している」というのは誤解です。
ただし、アンブシュアを常にせわしなく動かすわけでもありません。
基本はこれまで解説したアンブシュアで演奏し、必要に応じて変化させ、また元のアンブシュアに戻す。
短い場合は、1フレーズ・音1つだけで、アンブシュアを変化させることも多くあります。
良いアンブシュアになるほど、アンブシュアを意識することがなくなり、単なる奏者と楽器の中継点でしかなくなる。
そうすればアンブシュアにとらわれず、音楽表現に没頭できる。
理想のアンブシュアについて、より詳細な内容はこちらの記事をご覧ください。
2-2.アンブシュアを変化させる
演奏しながらアンブシュアを変化させる具体例を解説します。
「顎の位置」と「マウスピースをくわえる深さ」で変化を出す。
顎を前に出す | 高音が当たりやすい 音程が高くなりやすい |
顎を後ろに引く | 低音が当たりやすい 音程が低くなりやすい |
マウスピースを 浅くくわえる | 息が入りやすい 音色は暗く・柔らかめ |
マウスピースを 深くくわえる | 少しの息で鳴らしやすい 音色は明るめ |
これらの変化をさせるには、全体的にリラックスしたアンブシュアである必要があります。
特にマウスピースを噛む、噛みつき奏法にならないように注意してください。
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3.アンブシュアを研究するにあたって
闇雲に反復練習だけしていても、良いアンブシュアが作られるわけではありません。
3-1.具体的な研究方法
次のような内容を試してみてください。
- 下唇の深さを変えてみる
- マウスピースのくわえる位置を変えてみる
- 口の中の状態・舌の位置を変えてみる
- 噛まないで音を出せるよう、唇の使い方を研究してみる
今の状態で納得出来ないなら、少し演奏に変化をつける必要があります。これはアンブシュアに限らず、全ての練習において大切なことです。
これらの練習法の考え方については、次の記事でまとめていますので参考にしてください。
>楽器上達のコツ!毎日の楽器練習を効率よく行うための2つの考え方
口の形は人それぞれ違う。
だから自分に合ったアンブシュアは、最終的には、試行錯誤して自分で探すしかない。
3-2.初心者・指導者の方へ
様々なアンブシュアのヒントを紹介してきましたが、初心者の方はまず「音が出ること」を優先して、練習・指導してください。
例えば前述した通り、マウスピースを噛んで演奏することのデメリットは多いです。しかしその反面、音が出やすいです。音が出ないことには、そこから良し悪しを判断することはできません。
まずは音が出るアンブシュアで練習しながら、少しづつ良いアンブシュアに移行していく
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まとめ
アンブシュアの要点は次の通りです。
今回解説してきた内容が実践できるようになるほど、アンブシュアの悩みは小さくなります。
- 下唇は巻き過ぎない
- 自分に合うマウスピースの深さを探す
- 口の中を狭くする
- 上下の歯を揃え、噛みつかない
- 唇と口元の筋肉で、マウスピースを包み込む
- アンブシュアは固定せず、柔軟に変化させるのが理想
- 研究する場合は、今のアンブシュアを少しづつ変えていき、色々試す(闇雲な反復練習はしない)
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
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